BMW・イセッタ・250
(BMW ISETTA 250 – 旧西ドイツ車 – 1955年式)

姿形はとても有名な、非常にキュートな自動車をご紹介します。
1955年に、あのBMWがオートバイ用250ccエンジンを搭載して登場させたのが、このBMW・イセッタ・250です。
元は、イソと云うメーカーの車体なのですが、BMWエンジンを搭載して、ライセンス生産を行ったのが、BMWイセッタでした。
この魅力的な、ちいさな自動車をご紹介します。
もう、マンガとしか云い様の無いおとぼけ顔のイセッタ。
生まれはイタリアで、イソと云う会社が1953年に誕生させました。その後、いろいろな国でライセンス生産が行われ、中でも有名なのが、旧西ドイツのBMWが製造したBMW・イセッタでした。
この個体には、ヘッドライトにかわいらしい目ん玉のカバーが装着されて展示されておりました。
日本の白いナンバープレートが、前歯のように見えてさらにひき立てます。
こうなると、もうマンガのキャラクターにしか見えません。
誰もが笑顔になる自動車。イセッタは、そんな魅力を持っていました。
ゼンマイを巻いてキコキコ云いながら走りそうなイセッタの姿は、誕生から半世紀を過ぎた21世紀でも世界中で愛されており、マンガやミニチュアカー、服などの絵柄で、生活の実に様々な場面で、その姿を見かけるので、形は知っている方も多いと思います。
しかし実車は、今では大変貴重なものとなりました。
ちなみに、ここに紹介している個体は、新車のように手入れが行き届いた極上品の一台です。
BMWのモーターサイクル「R25」の245cc、空冷単気筒OHV型エンジンをリヤに搭載しており、このモデルは、一見3輪車に見えますが、実はとてもトレッド幅の狭いタイヤが2本後ろに着いているタイプで、4輪車でした。
しかし、英国仕様には、3輪自動車の規格に合わせて3輪タイプもあるそうです。
この個体は、背中に荷物を背負えるようになっていて、籐製の魅力的なトランクボックスが積まれていました。
ホワイトリボンタイヤも、とてもよく似合っています。駆動伝達方式は、チェーン式だそうです。
後ろから見ると、絞り込まれたデザインの中に、ちゃんとめっきのバンパーが着いていて、テールライトよりも大きいナンバー灯やナンバープレートが多くの面積を占有しているのが判ります。
これも貴重なBMWエンブレム入りの泥除けが着いていました。
背中にしょったトランクを固定するリヤキャリアは、このようにスイングして手前に倒れるようになっています。
倒すと現れたのが、給油口でした。
こちらは、イセッタの屋根に取り付けられた、キャンバストップ。
開放感抜群ですが、一説には「非常脱出用」と云う話もあるようです。
エアコン装備は無いので、とてもありがたい装備と思います。
右サイドの小さなカバーを開くと、BMW製のR25用、強制空冷式単気筒エンジンが姿を見せます。
245cc、OHV型のエンジンは、このカバーを開けただけで、日常のメンテナンスが出来るようになっていて、とても合理的なレイアウトとなっていました。
エンジン下側を見ると、オイルパンのオイル交換用ボルトも手前を向いて着いていて、オイル交換時は、ジャッキアップすら必要無さそうに見えました。
昨今の電気仕掛けだらけの自動車もいいですが、こういう使い勝手の原点のようなことは、いつになっても忘れないで欲しいものです。
ホワイトリボンタイヤが装着されているホイールには、BMWのエンブレムが入るクロムめっきの純正ホイールカバーが装着されていました。
これもかなり貴重なパーツと思われます。
ちなみに、ホイールは、1950年代の日本製軽自動車のような合わせタイプでは無く、1ピースのスチールホイールでした。
さて、右横から見たスタイル。ドアがありません。
ちなみに、左側にもドアはありません。
よく見ると、前面が開いています。この自動車は、前から乗り降りすると云う、実にユニークなレイアウトなのでした。
それにしても形が「走るおむすび」か、「ひよこまんじゅう」です。
こちらが、唯一の乗降口、フロントドアを開けたところ。
これも目ん玉カバーと相俟って、動物キャラクターが大きな口をあけたように見えます。
そして、ずっと気になっていたことがあったのです。
「前が大きく開くと云うことは、その時ハンドルはどうなるのだろうか?」と、云う事。
こちらが正解でした。
ドアにハンドルの軸がくっついてるのですが、軸がちょうつがいが着いていて、ドアと一緒に少しだけスイングするようになっています。
イセッタは、2名乗車なので、ステアリングシャフトとペダル類は、左寄りに着いており、ドアの付け根も左側なので、以外とじゃまにならずに大きな開口部から乗り降りが出来るのでした。
おかげで長年の謎が解けました。
この一枚に、イセッタの運転に必要な室内機器がすべて網羅されています。
このようにコンパクトに、必要最低限の機器で、運転できるようになっていました。
ちなみに、英国仕様(右ハンドル)は、ちゃんと右側にハンドルやドアの付け根があるようです。
さて、今回はこの個体のオーナー様のご好意で、運転席に座らせていただきました。
大きな”フロントドア”を開くと、白いステアリングが僅かにスイングして迎えてくれました。
ベンチ型のシートと、明るい色で構成された室内色も相まって、とても小さなボディにも関わらず、室内は開放感があり、シンプルな機器類の配置のお陰で、広々とした感じがしました。
ステアリングを手前に引いてドアを閉めると、さすがにひざの辺りはタイトな感じがありましたが、それでもこのボディサイズとは思えないほど、ゆったりしていました。
こちらは左側の操作類。
床から真直ぐに生えるのが、サイドブレーキレバー。左側にある白いのが、シフトノブです。
シフトレバーの前あたりに、横から2本出ている小さなレバーは、上が「チョークレバー」で、下が「ヒータ-」スイッチだそうです。
タイヤハウスのところに「STARTEN(ドイツ語でスタート)」と書いてあるのはこのレバーの説明書きのようです。
その下は、「ZU」と「AUF(上?)」ですが、こちらはヒーターの説明のようです(ドイツ語の意味は不明)。
シフトノブに着いている鍵は、セキュリティ用の鍵だそうで、シフト操作を出来ないようにすると云うユニークな機構でした。
シフトパターンが、右手前がリバースで、H型の4速パターンですが、よく見ると普通の自動車と上下が逆でした。最初は、ちょっと慣れが必要かもしれません。
左ハンドルですが、左の壁にシフトレバーが取り付けられているあたりが、80年代頃のマニュアルシフトのレーシングマシンのようでかっこいいと思いました。
こちらは、BOSH(ボッシュ)製のフロントワイパースイッチ。前面ガラスのワイパー(一本型)の、裏側に着いている感じで、とてもシンプルなものでしたが、なんとなくこの金属の質感がかっこよく見えました。
最後に、BMWイセッタの「製造プレート」です。
「Bayerische Motoren Werke(BMW)」の立派な製造プレートには、Baujahr(製造年)が1961?と書いてあるのですが、よく確認出来ませんでした。
Zulässiges Gesamtgew(車両総重量?)は、600kgとあり、Zul Achslast vorn(前軸重量)350kg、Zul Achslast hinten(後軸重量)300kgとありました。
小柄な車体で600kgとは以外に重いと感じたのですが、鉄で各部がしっかり造ってあるからでしょうか。
(ちなみにMCCスマートは、1,000kgを超えます。)
【こぼれ話】
この個体は、チームヤマモト・クラシックカーフェスティバル2012の会場でオーナー様にお声を掛けさせて頂き、取材させていただきました。ありがとうございます。
※この個体、Webや雑誌でも沢山紹介されているそうで、ナンバープレートマスク処理も不要とお伺いしておりましたが、当Webサイトのポリシー通り、マスク処理させていただきました。
日本のスバル360もそうですが、見ただけでこれほどほのぼのとした気持ちにさせてくれる自動車と云うのも、素晴らしいと思いました。
会場で、見かけた誰もが思わず笑顔になってしまう。それがイセッタの大きな魅力なのではないかと思います。
そして、運転席に座らせていただいて、その合理的な創りと開放感でまた思わずニッコリしてしまいました。
昨今、大柄で目じりの釣り上がった、いかめしい自動車ばかりが流行っているというか、もはや標準化してしまった感がありますが、半世紀前に街を走っていた小さなクルマたちは、笑った顔のクルマがたくさんあったように思います。
それは、人が穏やかな気持ちで日常を過ごせた時代を表していたのかもしれません。
イセッタとそれを取り巻く笑顔を見ていたら、なんとなくそんな事を思ってしまいました。



