

ルノースポール・スピダー
(RENAULTsport Spider – フランス車 – 1997年)

フランス車、ルノーのモータースポーツ部門、ルノースポールが、ワンメイクレース用に製作したことに端を発する、大変珍しいオープンスポーツカーをご紹介します。ルノースポール・スピダー(英語風で云うルノースポーツ・スパイダーですが、ここではフランス風の表記に統一します。)です。
ここでは、日本に初期に輸入され、オーナーの手でライトチューニングが施されたナンバー付の一台をご紹介します。

ルノースポール・スピダーは、1995年に発表されました。
当初は、Formula1グランプリの前座イベントなどで、ワンメイクレースを行うためのクルマだったそうです。
しかし、発表時の反響が大変大きく、急遽ナンバーを付けて街中も走れる仕様が製作されたようです。
真横からのスタイル、特に後半の部分は、レース用のオープンスポーツカーらしい形状をしています。

元々スピダーには、屋根が一切用意されていないそうで、このお洒落な屋根は、スピダーのオーナーズクラブの方が製作した手造り品なのだそうです。
フロントガラスも、レース用バージョン(ソートバンと云うそうです)では、小さな風防が装備されるのみだったようです。
また、ワンメイクレース仕様では、コックピット周りがもっと沢山のロールケージで覆われていたようです。
この固体は、バルブリーズと呼ばれる街乗り版なので、大型のフロントガラスとドアに小さな三角窓を備えています。

屋根が無い代わりに、ロールバーは全車標準装備だそうです。
ボディワークはオールFRP製、フレームワークはアルミ製スペースフレーム+サブフレームにハニカム樹脂ですので、車両重量は960kgと、非常に軽量に造られています。

全幅1,830mmのボリューム感たっぷりの後姿。
全長は3,795mmで、ホイールベース(前後の軸間)が2,343mm、トレッド(車幅)が1,536mmですから、色々な自動車の中でも、4つのタイヤがかなり正方形に近い配置となっています。
このスピダーが、コーナリングを楽しむ為のレーシングスポーツである証です。
さらに出自がレーシングカーということもあって、保安部品を中心に随所にルノーの市販車両のパーツが流用されています。
ちなみに、この丸いテールランプは、運搬トラックモデルからの流用だそうです。

一方、フロントマスクに配置された大きなヘッドライトカバーは、流用ではなく、このスピダーの為に造られたガラス製のものが着いていました。
ちなみに、ワンアームワイパーは、ルノー・トゥインゴからの流用で、小さなウインカーレンズは、オースチン・ミニと共通だそうです。ディアブロGTの300ZXのヘッドライトのように、少量生産のスーパーカーと同じく、上手に量産車のパーツを使っています。


また、FRP製の小さなドアは、ランボルギーニやグループCカーのように前方に縦に開く、変形ガルウイング式を採用しており、スーパーカーの雰囲気が漂います。
このドアの開閉感は、小型のFRPと云う事で、とても軽いのが印象的でした。

スピダーのフロントマスクは、このように大きく開きます。
ボンネットと云うよりは、カウリングです。
FRPでもボディ表面にひずみを感じさせる箇所は見つからず、とても上質な造りをしていました。


こちらは、フロントカウルの内側の様子。
樹脂製のモダンな小物入れが備わります。この小物入れは簡単に外せるようになっており、サーキット走行時には、容易に外してピットに置いておけるようになっていました。

フロントカウル内側の左部分。
ヘッドライトのアッセンブリー部分自体は、他の市販モデルからの流用と思われます。
角のクラッシャブルエリアには、ウォッシャータンクが備わっていました。

小物入れを外すと現れたのは、レーシングスポーツらしいアルミ製スペースフレームとハニカム樹脂製のフロアパネル。
バッテリーは、バルクヘッド側に搭載されており、ブレーキマスターシリンダーも中央にあります。これらは、中央部への重心の集中と、クラッシュ時のスペース確保が考えてあるのでしょう。重いバッテリーが右側に寄せて搭載されている理由は、左ハンドル車の為に左右の重量バランスを考えての配置だと思われます。

さて、見えそうで見当たらなかったのが、サスペンションシステム。
なんとバッテリーよりもさらに奥に、しかも横に寝かせて搭載されていました。
レーシングスポーツならではの、フォーミュラーマシンなどにも採用されている、いわゆるプッシュロッド式でした。

角のクラッシャブルゾーンの樹脂パネルは、ハニカム構造むき出しでカットされていましたので、パネル内部の構造がよくわかりました。

こちらは、右側にあるエアプレーンタイプの給油口です。
クルマがクルマだけに、耐久レーサーのクイックチャージャーのようでよく似合っていました。

この固体のホイールは、RAYS製の特注品が奢られていました。
タイヤにバッタがくっ着いていますが、これは環境感応型装着オプションです。
タイヤは、ヨコハマタイヤのセミレーシングタイヤ、ネオバが着いていました。

スピダーのエンジンですが、意外と大人しい車種からの流用で、ルノー・メガーヌ用水冷式直列4気筒4バルブDOHC 1,998ccが搭載されていました。
最高出力は、144BHPで、18.9kgmと、スペックも意外に控えめです。
しかし、車両重量が軽いので、200km/hオーバーの巡航も可能で、コーナーでの立ち上がり加速も中々のものだそうです。

後ろのサスペンションの配置がユニークで、前方に寝かせて搭載されており、プッシュロッドに近いレイアウトでした。これは、低い車高とエンジンとの兼ね合いから、必然的にこうなったと云う感じで、ちょっと癖のある動きをすると、足回りに造詣が深いオーナー談でした。
ちなみに、オーナーさん特注の車高調整式ダンパー(エナペタル製)+Swift製直巻きスプリングの組み合わせが奢られていました。

さて、例のセミガルウイングドアですが、FRPながら、中々しっかりとした造りをしていました。
一見すると、樹脂には見えないクォリティで造られています。
しかし、開閉してみるとかなり軽いのでちょっと驚きます。

こちらは、街乗りバージョンに標準装備されるサイドドア唯一のガラスです。
ガラス製の三角窓ですが完全固定式で、室内・・・と云うかコックピットへの風の巻き込みを防止する為に装備されているようです。
レース用バージョンには、この窓は無いそうです。

コックピット全体の印象は、レーシングスポーツと云うよりショウモデルのようです。
しかし足元は、アルミモノコックがむき出しで、このあたりはRSクラスあたりの風の当たるレーサーと云う印象でした。

上半分のモダンな造りのインストゥルメントパネルと、腰下のアルミモノコックの対比がじつにユニークです。
フロントガラスの枠は、ロールバー効果もあるのか、かなり分厚くしっかりとした造りでした。
スパルタン一点張りではないところが、さすがフランス車と云う感じです。
木目でスパルタンと一線を画す英国車の手法とも違い、モダン路線でソフト感を出しています。
ちなみに、スピードメーターは、チョロQが飾ってあるセンターメーターの部分にデジタル液晶で表示されますので、ステアリング奥の中央にあるメーターは、回転計でした。

ドア開口部には、前後カウルの開閉用ノブが着いています。
スピダーには、サイドウインドウもリヤウインドウも、屋根もありませんから、ドアの鍵を掛けることで、前後開口部のセキュリティを保つ仕組みになっているようです。

助手席側足元には、マガジンラックのような網目の小物入れが着いていました。
座った印象は、目線の低さ、レース用に近いフルバケットシートと、アルミモノコックに包み込まれている印象が強く、オープンレーシングスポーツに乗っている感覚がものすごくありました。
背中のエンジン音、振動と共に、好きな向きには、かなりいい雰囲気が味わえます。

これだけのスイッチの為にセンターコンソールが必要なのだろうかと云う、野暮な疑問はフランス車には必要ありません。
専用のアルミ製プレートが、オーナー心をそそります。

気になるシフトパターンですが、以外にもレーシングパターン(左手前がロー)ではなくて、普通のHパターン5速でした。
メガーヌからの流用ゆえの配置かもしれません。
リバースは、シフトノブを回転させて入れなさいと云う絵が書いてあります。

シートは、ハイバック型のレーシーな専用レカロでした。多点ベルト用の穴は、もちろん伊達ではなく、車体側には、ちゃんとベルト用のアイボルト穴が開いているそうです(本物のレース用シートベルトは、車体に固定されたアイボルトに、ベルトの根元にある金具で固定するようになっています)。

こちらが、レース用ベルト穴を通すカウルの穴。街乗りモデルは塞がってあるようで、別の穴から3点式ELRが出ています。
このカウルの穴を開けると、ちゃんとアイボルトを固定するところが着いているそうです。
ちょっとカウルに穴を開けるのに勇気が要りそうですが。

この固体には、日本のチューナーの老舗、柿本レーシングのエキゾーストシステムが搭載されていました。
決してうるさくなく、心地いい快音を発していました。
これは、オーナーさんの特注だそうです。

こちらが、先に紹介したルノースポール・スピダー・オーナーズクラブの方が自作したという屋根です。
さりげなく、ちょっとした雨からドライバーを守ってくれます。
ロールバーにくくり付ける装着方法が、斬新でおしゃれな印象でした。

ルノースポール・スピダーは、レーシングスポーツでありながら、エレガントさを併せ持っています。
特にこのフロントマスクの造形の美しさは特筆ものです。

リヤエンドも、ちょっとした彫刻芸術の域に入っています。大胆にして美しい。

【インプレッション】
助手席に乗せてもらって、ワインディングを走っていただきました時の印象を記しておきます。
前述のとおり、座席に座ると、モダンなインストゥルメントパネルよりも、低い目線と、腰下のアルミモノコックの迫力が雰囲気を引き立てます。
柿本レーシングのエキゾーストシステムが発するDOHC16バルブの快音を背中に感じながら、控えめなロールでコーナーに飛び込んでいきました。
意外と乗り心地はマイルドで、これは足回りに造詣が深いオーナーさんのセッティングの賜物かもしれません。
しかし、ロールの無いままあっというまに結構な速度に達していることが、速度計の位置で確認できます。
「オープンシーターのレーシングカーってこんな感じなのか。」と、頭の中は、ミュルサンヌコーナーの後に来る森の中の妄想を膨らませながら目近のアスファルトがものすごい勢いで飛んでいく様は、快感でした。
それは、フェラーリとも、箱型レーシングカーとも違い、カートとも違う、スピダー独特の興奮でした。
大きなフロントガラスのお陰で、風はもろに受けませんが、雰囲気的にはフルフェイスが欲しくなる楽しいドライブでした。

【こぼれ話】
この固体は、いつもお世話になっているなじみのお店、滋賀県高島市朽木のロフトカフェさんの常連さんでもある、スピダーのオーナーさんに取材させて頂きました。ありがとうございます。
じつは、新車からお持ちで、何年も前から見せてもらったり乗せてもらっていたのですが、身近な方の珍しいクルマは、意外と灯台下暗しで、載せるのを忘れていることがあるのです。
頻繁に見るので見過ごしていたのですが、よくよく考えてみたら、相当珍しい一台だったと、ふと思い出したのでした。
この個体のオーナーさんは、速くよりも、楽しく走らせることがお好きで、そのための足回りチューンを常々研究されている方です。
他にもすばらしい旧車をお持ちなのですが、一台一台、好みのセッティングにしっかりと仕上げておられ、とても大切に乗られているのがすぐに判るコンディションのクルマをお持ちです。
オーナーさんには年に何度かお会いするのですが、久しぶりに見たこの希少なスピダーは、益々仕上がってきた感がありました。


(このダッシュボードに飾られたスピダーのチョロQは、なんとルノースポール公認だそうです。)



