ランチア・フラミニア・クーペ・ピニンファリーナ
(Lancia Flaminia Coupé Pininfarina – イタリア車 – 1966年式)

1960年代イタリアの、大変美しいサルーンをご紹介します。
1966年型ランチア・フラミニア・クーペ・ピニンファリーナ(Lancia Flaminia Coupé Pininfarina)は、その名の通り、ピニンファリーナのデザインによる優雅なボディを纏った高級スポーツサルーンです。
特に日本国内では、個体数が大変少ない希少な一台です。

ランチア・フラミニア・クーペの顔つきは、1960年代ピニンファリーナデザイン特有のものですが、中でもフラミニアは高級サルーンらしく、ボディ全体にボリューム感があり、GTスポーツ系のそれとは別の気品が漂います。
そのサイズは、全長が4,686mm、全幅が1,740mm、車高が1,420mmとなっています。

最初に、クラシックカーイベント会場でこの個体のテールエンドが走り去る姿を見かけたときには、一瞬、英国製高級サルーンかと見間違えました。
実写を観ると、じつに圧倒的な存在感を放っており、思わず会場内にその姿を探し回ったのでした。

近づいてみると、英国製のそれとは違う、やはりイタリア製、やはりランチア!と思わせたのが、この個性的なルーフラインから伸びたフィンでした。
サイドウインドウからテールエンドまで伸びるこのクロムめっきのラインは、このフラミニア・クーペの美しさを最も引き立てている特長のひとつです。

逆アリゲータ式のボンネットフードを開けると、さすがは高級サルーン。消音効果を狙ったと思われる、しっかりとした内張りが奢られていました。
キルティングのような縫い目は、ボンネットの内張りにしては珍しい気がしました。

パワーユニットは、水冷式V型6気筒SOHCで、2,458cc、127BHPのエンジンを搭載しています。
シリーズには他に、2,800ccモデルも存在したようです。
ギアボックスは、マニュアル式4段で、後輪に動力を伝えます。
スポーツサルーンゆえに、ブレーキシステムは4輪にディスクブレーキが奢られています。

1960年代頃の車両で時折見かけるアイテムですが、ランチア・フラミニア・クーペのラジエーター液リザーブタンクは、ガラス製の瓶でした。
この、「エンジンルームにガラス製品」と云うのが、いつも、つい注目してしまいます。
エンジンと云う機械製品と、ガラス瓶と云う台所的な生活感の組み合わせが生み出すミスマッチが面白くもあり、歴史あるヨーロッパ車の個性のひとつのようにも思います。
台所でピクルスが漬けてあってもおかしくない瓶にエンジンの冷却水と云うのが、なんとも面白く感じてしまうのです。

1960年代ヨーロッパ車の運転席は、ほんとに美しい。
このランチア・フラミニア・クーペーの運転席も、大変シンプルながら、見事な気品を醸し出していました。
ちなみに、ステアリングシャフトの左下に伸びる、やや大きめのレバーは、サイドブレーキレバーだそうで、他には類を見ない珍しい生え方、形状をしておりました。
このあたりは、さすが個性派のランチアといったところでしょうか。

室内は、ほんとにシンプルです。
それでも決して陳腐感を感じさせず、むしろ優雅に思わせるのは、琥珀色の本皮シートだけが理由ではないと思います。
ぎっしり詰まっていなくても、ごてごて着いていなくても、高級感は出せるのだと云う見本のように思います。
さすがは、ピニンファリーナデザインの妙です。

シートのデザインも前後共にヘッドレストが無い、大変シンプルなものでした。
それでもラウンジのソファーのようなフカフカ感と、落ち着きのある室内空間を演出することに成功しているひとつの理由として、深みのある生地の色合いと、ドア内張りの黒の使い方があるように思いました。

【こぼれ話】
この個体は、チームヤマモト・クラシックカーフェスティバル2014の会場で、オーナー様に声を掛けさせて頂き、取材させていただきました。
ありがとうございます。
わたしは最初、この型のフラミニアを知らなかったので、ピニンファリーナのスペシャルモデルか何かかと思っていました。
会場に入ってきたときは、そのスケール感とクルマが放つオーラに、ロールスロイス・コーニッシュあたりと勘違いをしてしまったのですが、それほど優雅な雰囲気を漂わせたGTサルーンでした。
それは、この固体が博物館から抜け出してきたかのようなコンクールコンディションだったこともあると思います。
昨今、コンピュータの普及で、デザインの自由度が上がったかのように見えますが、この定規とペンの時代のデザインが放つオーラのようなものを創り出すと云う意味では、果たして本当に進歩しているのだろうか?むしろ後退してしまったり、置き忘れてきたものがあるのではないか?と、思うことがしばしあります。
スピードと効率化では、決して生み出すことが出来ない、幅とか厚みと云ったものが、この1966年型ランチア・フラミニア・クーペには、沢山あるように思います。
たとえば、シンプルなのにとても高級感が漂う室内であったり、美しいテールフィンであったりと云うところ。
創り手が美しいものを、優雅なものを創りたいと云う思いが、細部にまで行き渡った結果、生み出されたものがあるようにおもいました。
一見地味な車種かもしれませんが、細部にまで手抜きなしの創り手の感性が込められていて、強いメッセージを伝えてくれる優雅で個性的な一台でした。



