ドゥカティ・900スーパースポーツ・デスモ
(DUCATI 900 SUPER SPORT DESMO – イタリア車 – 年式不明)
ドゥカティ・900スーパースポーツ(900SS)は、1975年にそれまでの750SSの上級モデルとして登場した、当時のバイク好きには垂涎のスーパーマシンでした。
当時としても少しノスタルジックな、カフェレーサー風のロケットカウルとシングルシートを装備したスタイリングは、後の他メーカーのロードゴーイングスポーツにも多大な影響を与えました。
ここでは、900SSのまさにコンクールコンディションの一台をご紹介します。

ドゥカティ900SSは、後にドゥカティのお家芸となる「デスモドロミック(Desmodromic)」と云うバルブ開閉機構を搭載した90度V型2気筒を搭載した、ロードスポーツバイクです。
形は、1960年代のレーサーマシンをモチーフにしたスタイリングで、ボディの塗り分けも、ストライプの使い方がなんとも良き時代を踏襲したシブイものでした。

全体の大きさは、さすがに900ccのVツインを搭載しているので、それほど小さくはありませんが、それでも当時の900ccとしては、驚異的に小さく無駄なくまとめられており、ハンドルの位置、シート、ペダルの三点の三角形からしても、このマシンが、ワインディングでのスポーツ走行を楽しむために特化した乗り物であることがよく解ります。
それは、まさに究極のロードゴーイングスポーツの形で、無駄な装飾は一切排除して、エンジンを中心に必要なものを取り付けたと云う印象で、これぞ機能美!と云う美しさをあわせ持っています。
程よく焼けたエキゾーストパイプのグラデーションが実に美しい輝きを放っていました。

縦置きのV型2気筒エンジンゆえに、この後姿からは、とても大型バイクとは思えないほどスリムな印象です。
まるでスーパーカブかベンリィのようなリヤフェンダーに最小限の保安部品が取り付けられていますが、これらは、すぐに外れそうな取り付け方をしてあり、外せばすぐに休日のサーキット走行もOKと云う仕様になっているように見えます。
それでも、リヤブレーキには、じつにしっかりとしたディスクブレーキが奢られていて、走りを楽しむためのマシンであるコンセプトに一切ブレはありませんでした。
シングルシートのカウリングが、60年代レーシングライダーのおわん型ヘルメットのようでとてもキュートな印象でした。

900SSのスチール製燃料タンクは、究極の機能美を追求した独特の美しい曲線で構成されていました。
ストライプがなんともいい味出しています。
よくドゥカティ車で見かけるDESMOのステッカーは、エンジンのバルブ開閉にバルブスプリングを使わずに、カムとロッカーアームで動かす機構のことだそうで、古くからごく最近でもレーシングエンジンなどに使われている機構です。
バルブスプリングの弱点として、高回転域で、スプリングの動きがついていけなくなることが挙げられます。
このために、高回転型のレーシングエンジンには、強化スプリング、つまり強いバネレートのスプリングを使うことが多いのですが、強化するとそれが抵抗になってしまうと云う難しさがあるのです。
そこで、このデスモドロミックの場合は、スプリングを使わないので正確なバルブ開閉の動きを実現することをねらったもの
だと理解しています。
但し、こちらも部品点数が増えるなどの弱点はあるようです。

こちらは、900SSのリヤ駆動部分ですが、おや?っと思ったことがありました。
ドライブチェーンが右側に着いていたのでした。
最近の多くのモーターサイクルは、たいてい右側にディスクブレーキ、左側にドライブチェーンが着いています。
このようなことは、ヨーロッパ製のモーターサイクルには少なからずあるようです。
ちなみに、ドゥカティ車にも、ブレーキペダルとチェンジペダルが左右逆に着いているモデルがあるそうです。
つまり、ブレーキペダルが左、チェンジペダルが右と云う配置になっている車種があるとか。
この900SSはこの点は、普通にチェンジペダルが左でブレーキペダルが右でした。
それにしても、この個体は細部までとても綺麗に磨き上げられていました。

こちらも、リヤ駆動部のとても美しい部品がたくさん着いた一枚。
まっすぐ延びたエキゾーストマフラーの左下に見える、スイングアームの形状の美しいこと!
そして、チェーンの張りを調整する機構がとてもユニークでした。
なんとなくですが、とても調整が簡単で正確に行えそうな機構に見えました。
リヤフェンダーの造形もとても綺麗です。

こちらが、デスモドロミック搭載の空冷式4サイクル90度V型2気筒 SOHC2バルブ 883.9cc エンジン。
いわゆるドゥカティのL型ツインです。
ボア×ストロークが、86mm×74.4mm、圧縮比は、9.5:1だそうです。
公式には出力が発表されていないようでした。
このエンジンに、5速ミッションが組み合わされます。
綺麗に磨き上げられているからよけいにそう見えるのですが、
これぞ無塗装の美学!

右側からのエンジンの眺め。
これを見て、OHVかと思いましたが、調べてみるとSOHCと公式に記載がありました。
もしや、これがデスモ機構の証?
それにしても一つ一つの機械の美しいこと。
さらにキャブレターの吸気がファンネル式、つまり素キャブなのに、さすが走りのSSを感じました。
そして900ccにしてキック始動。
これはさぞかし大変かと思いましたが、オーナーさんはいとも簡単に始動されました。

さらにうっとりするような900SSの運転席の眺め。
なんと機能的で美しくかっこいいメーターパネルなんだろうと感激でした。
回転計は、レッドゾーンが8,000rpmからとなっています。昨今のオートバイにくらべると、意外と控えめですが、このトルク重視型のエンジンが、究極のロードゴーイングスポーツの愉しみを提供してくれるのでしょう。
ちなみに、ステアリングヘッドに絶妙に装着された、ラムコ(Lamco)製の電流計と、これも絶妙な回転計横の懐中時計は、この個体のオーナーが装着したと思われる外品部品です。
絶妙過ぎて、じっくり見ないと純正化と思うぐらいでした。
ステアリングヘッドのフロントフォーク取り付け部に、マイナスのねじ頭が見えますが、これはもしかしたらサスペンションスプリングのイニシャル調整用かもしれません。
特にモーターサイクルは、このあたりの微妙なセッティングによって、ハンドリングがかなり変化しますので、好みに合わせられるようになっていると思われます。
【こぼれ話】
この個体は、クラシックカーフェスティバルinかすが2014のクラシックモーターサイクルイベントにて、オーナー様に声を掛けさせて頂き、取材させていただきました。ありがとうございます。
伝説のドゥカティ900SS、実物を初めて拝見させていただきました。
この900SSが発売された当時は、まだ小学生でしたので、知る由も無かった頃なのですが、中学、高校ぐらいになって、クラスでバイクの話が盛り上がる中で、この900SSのことも時折出てきていました。
タミヤの模型の影響もあったかもしれません。
とにかく、オートバイのスーパーカーと云うのが当時の印象でした。
こうして、大人になって、900SSが少しばかりクラシックモーターサイクルの域に入った今、あらためて間近で観ると、あの印象は正解だったと思ったのでした。
レーシングマシンではなく、走りを楽しむための究極のロードゴーイングスポーツ。
4輪で云うなら、ランボルギーニ・ミウラのような存在に思えました。
この900SSで、ドイツのロマンティック街道あたりか、英国の田舎道を流したら、さぞかし楽しいだろうなぁと、乗ったことも無いマシンで行った事も無い場所を想像してしまうほど、魅力的なスーパースポーツでした。



