


フィアット・X1/9
(Fiat X1/9 – イタリア車 – 128AS型 – 1980年)

1970年代のとてもコンパクトなミドシップスーパーカーをご紹介します。
フィアットX1/9は、1972年に発表された、コンパクトカー、フィアット128をベースに、イタリアのデザイン工房、ベルトーネの手による直線的なデザインと、タルガトップをまとった、2シーターミドシップクーペでした。
ここでは、極上の逸品に仕立てられた、1980年型のフィアットX1/9をご紹介します。

2シーター、ミドシップレイアウト、リトラクタブルヘッドライトと云う、1970年代のスーパーカーの代名詞をすべて兼ね備えたフィアット・X1/9は、じつはとてもコンパクトなクルマで、全長は、3,969mm。車幅は、1,570mm。車高は、なんと1,180mmしかありません。
そしてエンジンは1,290ccのSOHCで、75psでした。後に1,500cc版(1,498cc 85ps)に拡大されますが、それにしてもとても小さなスーパーカーでした。

X1/9には、大きく2つの時期があり、1972年の発表から1982年までは、「フィアット(FIAT)」ブランドで、1982年から1989年の生産終了までは、「ベルトーネ(beltone)」ブランドで発売されています。
ここでご紹介している1980年型は、米国の衝突安全基準をクリアする為の衝撃吸収バンパー(通称:1マイルバンパー)が装備されています。
ちなみに、このバンパーはコンパクトで軽量なボディの先端に大きな構造物を取り付けなければならない為の重量バランスに配慮して、アルミで造られていました。
オリジナルのバンパー色は、アルミの銀色だったそうです。

直線的なデザインが強調された後姿。
ここにも前部と同様の1マイルバンパーが装着されています。オーバーライダーまで着いているのが特徴です。
X1/9の周りを取り囲む人たちの腰のあたりまでしか車高がありません。
スーパーカーの王様、ランボルギーニ・カウンタックと比べても1cmほどしか変わらない、驚異的に低い車高でした。

フィアットX1/9は、コンパクトなミドシップ・スーパーカーの先駆者となりました。
小型セダンのフィアット128をベースにしている為、イタリアの有名なスーパーカーたちのように高嶺の(高値ともいえますが)華ではなく、庶民にも手が届きそうな価格で手に入れられるスーパーカーでした。
このパッケージ手法は、後に日本初の量産型ミドシップモデルとなったトヨタ・MR2(AW11型)が、大衆車カローラをベースにしていることなど、後の各国のモデルに多大な影響を与えたと云われています。
1970年代後半のスーパーカーブーム時代に、誰もが憧れた「リトラクタブルヘッドライト」ですが、閉じたところと開いたところを比較してみました。
当時のスーパーカーらしい顔つきですが、このヘッドライトを装備するスーパーカーたちは、開けるととても愛嬌のある顔つきに変貌します。

フィアット・X1/9の最もベルトーネデザインらしいのがこの部分だとわたしは思います。
四角いドアノブは、このタイプのノブにしては珍しく、前から手を入れて開くようになっています。
クォーターピラーのガーニッシュには、「bertone」のエンブレムとロゴが入ります。
1982年からは、まんまこの形で「ベルトーネ・X1/9」と云う名前で販売されました。

庶民派のスーパーカーと云えども手抜き無し!
フィアット・X1/9のホイールは、クロモドラ製のマグネシウムホイールが奢られていました。
スポーツカーの哲学「軽量・スリム・コンパクト」のうち、軽量化に妥協することなく拘ったひとつと思われます。
ここまでやったのですから、1マイルバンパーにアルミを使った想いも察して知るべしです。
あるいは21世紀なら、きっと炭素繊維のバンパーを使ったでしょう。

さて、フィアットX1/9は、ミドシップですので、ボンネットの下は荷室になっています。
1,180mmの車高の割りに、深さがあり、灯油缶が縦に置ける程だそうです。
X1/9は、脱着式のタルガトップを備えていますので、外した屋根は、このようにボンネット下に綺麗に収まります。
この個体は、オリジナルには無い、ボンネット裏の防錆処理がしっかりと施されていて、ブラックアウトされていましたので、フェラーリ308GTSのような高級感が漂っておりました。

1970年代のスーパーカーブーム当時、どうなっているんだろうと興味深心だったエンジンフードとトランクフードを開いた時の中身を見せていただきました。
この一枚だけ見ると、AW11型MR2と一瞬見分けがつかないぐらいですが、X1/9のとてもコンパクトなエンジンのお陰でトランクルームもそれなりに物が積めるスペースが確保されていました。
当時の雑誌で謳われた「ゴルフバッグ」が1個は入りそうなスペースがあります。
我が敬愛する三本和彦氏の俗称「ぶしつけ棒」を使って測ってみたいものです。

コンパクトなX1/9の背中に収まっているはずの1.3リッターエンジンは、とても小さく見えました。
水冷式直列4気筒、シングルキャブレター式のSOHCエンジンは、低い車体にさらに低く搭載されています。
車体と同じ「128AS型」と云うエンジンだそうです。

こちらは、エンジンフード横にあるガソリン給油口のキャップ。セルフスタンドで入れるなら少し入れにくそうな位置にあります。
ここら辺は、MR2はちゃんとクォーターパネルに給油口がありましたが、イタリアのカロッツェリアは、きっとデザイン性を優先して、パネル面に蓋を着けるのを嫌ったのだろうと推測します。

こちらもイタリアンデザインの妙。
フロントガラスの下からニョキッと生えていたのは、車体番号プレートでした。
なんともお洒落なプレートです。

室内は、低い車高ゆえにタルガトップの上から一望出来ました。
室内も直線基調でまとめられており、決して安っぽくないシンプルさとスポーツカーらしさ、そしてイタリアンブランド品らしいお洒落な雰囲気を融合させています。
この個体は、なんといわゆる未再生原型車だそうで、レザーシートの質感ばかりか手触りまでも当時のままが残っている大変貴重な個体でした。

センターコンソールの2眼メーターは、オリジナルにしか見えないのですが、じつは後付けだそうで、純正と同じメーカーのヴェグリア(VEGLIA)製の油温、油圧計が備わっています。
ヒーターコントロールが1970年代車のいい雰囲気を出していました。
それにしても間近で見ても非の打ち所が無い極上コンディションでした。

こちらは、ドア内装です。
色のセンスがブランドバッグかと思うぐらいに絶妙で、ここだけ見ると、これが小型スーパーカーの内装だとは思えないぐらいの質感でした。

さて、フィアットX1/9のユニークな造りをいくつかご紹介します。
まずは、バルクヘッドに取り付けられたバッテリーですが、ちゃんとカバーに覆われていました。
これは純正なのですが、じつは現存する個体で、このバッテリーカバーがこれ程綺麗に残っていることは稀だと云うことです。
搭載位置がバルクヘッド前なのも、重量物を出来るだけ前後の中心位置に寄せたかったのでしょう。
フィアットの本気の造りが感じられます。

こちらは、ボンネット下にあるカバーです。リトラクタブルヘッドライトの後ろに綺麗な蓋が着いていました。
はずして見せてもらったところ、メンテナンス用のカバーだったようです。
当時のフィアットが、ほんとに廉価版スーパーカーを目指したなら、多分このような蓋は着けなかったでしょう。
ここにも、本物のスポーツカーを目指したことが判る部分でした。

こちらもボンネットを開けたところですが、ふと気が付いて驚きました。
フィアットX1/9のフロントフェンダーは、ねじ止めでは無かったのです。
フェンダーの折り返し部にどこにもボルトがありません。この外装フェンダーと各パネルは、どうやら溶接で繋がっているようです。
小さくスリムなボディに剛性を与えるための工夫かもしれませんが、ロータスやTVRなどの少量生産スポーツカーメーカーならまだしも、イタリアではトヨタのような大メーカーのフィアットが、ここまでやってしまうことにはほんとにびっくりしてしまいます。さすがは、イタリアです。

さて、これは何を示しているところかと云いますと、X1/9のボンネットの前、つまり左右のリトラクタブルヘッドライトの間にヘキサゴン(六角レンチ)を突っ込んでいるところです。
この低いノーズにラジエータが大きく傾斜して取り付けられており、両側のリトラクタブルヘッドライトの間のパネルは開きませんので、このスペースに手を入れて、ラジエータのエア抜きをするのだそうです。
これを見て、そういえばSA22C型初代RX-7や、ポルシェ924はどうなっているんだろうと少し興味が沸きました。

ユニークシリーズの最後は、この時代の国産車にもありましたが、イタリアらしい、助手席のレディのために用意されたと尾思われる、日よけに装着された鏡です。
確かトヨタは「バニティミラー」と云う名前で、女性向け仕様のターセルやコルサに着けていたと思います。

こちらは、左がフィアットオリジナルの製造プレートで、右は今や大変貴重な、当時のフィアットX1/9の正規輸入元「東邦モータース」のモデルプレートです。
「世界の名車に心をそえて」のフレーズがいい感じです。

【こぼれ話】
この個体は、中兵庫クラシックカーフェスティバル2014の会場で、オーナー様にお声を掛けさせていただき、取材させていただきました。ありがとうございます。
とあるご縁で、超極上のこのフィアットX1/9のオーナーに成られたそうで、現在、日本で行われているミレミリアなどの走る名車イベントなどにも参加されているそうです。
この個体が超極上な理由は、前オーナーが、パネルの裏側や継ぎ目などにオリジナルには無い防錆処理をしっかりと施し、無駄に紫外線に当てる事無くオリジナルの塗装や内装をコンクールコンディションのまま未再生で保存されていたと云う事にあり、随所にオーナーのこだわりがちりばめられているからです。
そのクルマを受け継ぎ、各界のクルマ好きな著名人も集まるイベントにこのコンディションを保ったまま参加されているそうで、頭が下がる思いです。
ヨーロッパの多くのクラシックカーがそうであるように、「走らせてなんぼ」の精神を保ちつつ、極上コンディションであり続けることが如何に大変なことかが、わたしなりに解るからです。
わたしにとって、フィアットX1/9は、子供の頃のスーパーカーブームの中で、「大人になったら、ひょっとしたら持てるかもしれない。」、「カウンタックは無理でも、X1/9ならあるいは。」と思わせたスーパーカーでした。
リトラクタブルライト、2シーター、ミドシップ、低い車体、イタリア車、どれもが憧れでした。
実際大人になったとき、既にX1/9は違う意味での高嶺の華で、やはり大人になっても手の届かないところにあるクルマでした。
それでも独身時代のわたしが精一杯がんばって買ったのは、「リトラクタブルライト、2シーター、フロントミドシップ、まぁまぁ低い車体、日本車」の2代目RX-7アンフィニ(FC3S)でした。
しかし、今回X1/9を間近で見せて頂いて、この車種へのイメージが変わりました。
見るまでは正直「廉価スーパーカー」と思い込んでいたのですが、随所の造りが文字通り「本気」で、よくぞフィアットのような大メーカーが創ったものだと感心する造りをしていました。
もしかしたら、ロータス・エランのようなライトウェイトスポーツを目指して居たのかな?と感じました。
子供の頃からずっと間近で見たかったX1/9。
その素晴らしさを改めて実感できた取材となりました。感謝。
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2014年12月20日追記
このFiat X1/9のオーナーさまから、11月に行われました格調高いクラシックカーイベント「ヴェトロモンターニャ 2014」にエントリーされたときの画像をお送りいただきましたので掲載させていただきます。重ね重ねありがとうございます。

このイベントはイタリアの伝説のイベント「ミッレミリア」の日本版のひとつだそうで、参加車両も本場のイベントにゆかりのある車種に限定されているそうです。大変貴重な名車がずらりと並んでいます。

威風堂々。ゼッケンを付けたFIAT X1/9。

このイベントは、いわゆる「走るイベント」で、秋の紅葉がとても美しい高野山(奈良県)の山中をパレード走行します。
FIAT X1/9は、真紅のディーノの後ろを走られたそうです。

独逸製シルバーアローたちとの1カット。普段はまず見かけることが無い車種ばかりです。

イタリアンスーパーカーたち共に佇むFIAT X1/9。
カロッツェリア・ベルトーネのラインが強調された改心の一枚で〆たいと思います。



