


オースチン・ローバー・ミニ・ピカデリー
(AUSTIN-ROVER MINI PICCADILLY – 英国車 – 1986年)

英国の初代ミニは、1959年~2000年までの41年間、基本構成はモデルチェンジを行わずに、時代に合わせた僅かな改良のみで造られて来た名車です。
「ミニ」と云う名称は、姿かたちを見れば、多少自動車の名前に疎い方でも判るほど、特に日本では有名なのですが、苗字の方は長い歴史の中で、随分と変移したクルマでもあります。
ここでご紹介します、1989年型は、オースチン・ローバーと云うメーカー名の頃で、ミニが生産開始から30周年を迎えた時期でもありました。
数々の限定車も存在するのですが、ここでご紹介するのは、世界で2,500台の限定車で、内外装共にとてもエレガントに仕立てられた「ピカデリー(Piccadilly)」と云うモデルです。
<2015/05/10 カスタム仕様の画像を追加>

ミニが1959年に発売されて、丁度30周年にあたる1989年に、ミニ・ピカデリーは、登場しました。
998ccエンジンのミニ、通称「ミニ1000」をベースに、
・カシミヤ・ゴールドメタリックと呼ばれる専用ボディカラー。
・樹脂製無塗装の控えめなオーバーフェンダー。
・クロムめっきのフロントグリル。
・クロムめっきのバンパー。
・専用の「Piccadilly」サイドストライプ。
・専用色の内装一式。
・アルミホイール(12インチ)
が与えられており、とても上質な雰囲気を持っているのが特徴です。

初代ミニは、その名の通り、とてもコンパクトによくまとめられたパッケージで、1950年代に設計された自動車ですが、合理的でとてもよく出来ており、観る者を飽きさせない魅力を持っています。
今や、巨大化した日本の軽自動車よりも、見た目に小さく見えるようになってしまいましたが、高級ホテルのロビーに乗り付けても大丈夫なぐらいに、安っぽく見えない上質さを備えています。


ミニ・ピカデリーは、998ccのエンジンには特別なチューンは施されていないようですが、初代ミニと云うクルマは、実に小気味良く走ります。
筆者は、初代ミニは比較的沢山の個体を運転させていただいたことがありますが、この個体は、ピカデリーと云うエレガントな限定車の性格もあってか、ボディの剛性感がとても良く残っており、初代ミニの特徴的なラバーコーンと呼ばれる特殊なサスペンションシステムの癖をあまり感じさせないマイルドな印象でしたが、それは鈍いと云う様な印象のものではなく、しっかりとした上でのマイルドさと云う感じでした。

運転席の、特にステアリングの角度が初代ミニは比較的寝ており、バスのような位置になるので、コーナリング時の独特の特性と相まって「カートのようだ」とよく云われています。
普通の乗用車のように、ハンドルをぐるぐると回して乗る場面では、少し癖のあるポジションではありますが、初代ミニの良いところは、山坂道や交差点でも、それほどステアリングを回さなくても、じつによく曲がってくれます。
特に山坂道のカーブでは、進入時に若干のアクセルオフによる重心移動と、僅かなステアリング操作を与えるだけで、カーブに入ってしまえば、アクセルオンで気持ちよく向きを変えながら曲がってくれるのです。
まさに、「グイグイ曲がる」とはこのことで、舵角が少ないことや、アクセルオンで曲がるので駆動力もしっかりと掛かり、とても安全に楽しく乗れる自動車です。
決して法外なスピードを出さなくても、日常的な速度で安全に運転を楽しめると思います。

さて、ピカデリーの話に戻しますと、この限定車のフロントマスクには、前述の通りめっきのグリルとシンプルはバンパーが装備されています。
主に、フランスと日本で販売されたそうですから、オーバーライダーは着いていません。
さらにこの個体には、めっきの砲弾型フェンダーミラーが奢られていました。
ピカデリーのカタログには、樹脂製無塗装のドアミラーが標準装備として載っておりました。
初代ミニの樹脂モノが流行った時代のモデルには、後でめっき製に換装されたカスタムミニをよく見かけますから、このめっき3点セットは、とても魅力的なものだと思います。

初代ミニは、ハッチバックではなく、このようにトランクルームが下に開くようになっています。
これは、どの時代のモデルも共通です。
このピカデリーには、スペースセイバータイヤではなく、4つのホイールと同じ、アルミホイールが積まれてありました。
すぐとなりには、バッテリーが納まります。
動力部品が全て前に着いていますから、これぐらいの重量物がフロアに積んであって、バランスが取れているような気がします。これでも、個体によっては(恐らく足回りのセッティング)、後ろが路面のギャップで跳ねることもしばしなのです。

ミニ・ピカデリーに標準装備されるアルミホイールは12インチで、この個体には、155/70-R12のヨコハマタイヤが装着されていました。
ホイールは標準装備されていたものですが、特にピカデリーのロゴなどは入っておらず、当時のオースチンローバーのイメージラインがデザインされておりました。

エンジンは、ミニ1000に定番の998cc、水冷式直列4気筒OHVです。
前述の通り、特別なメーカーチューンはありません。
シリンダーブロックが黄色に塗られているのは、純正のエンジンで、排気量毎に色分けされているそうで、1000ccの色は黄色なのだとか。
ミニの水冷エンジンは、その限られた空間にラジエータが押し込まれていますので、ラジエータは左横に着いています。
前面の大きなグリルから入った大量の風は、直接エンジンを冷却するようになっていますから、水冷と云っても半分ぐらいは空冷なのではないかと思うレイアウトです。
ちなみに、冬場は冷やしすぎになる場合もあるのか、ラジエータの一部をテープなどでふさいでいる個体も時折見かけます。
乗ったときのエンジンの印象は、OHVエンジンらしく、トルク重視と云う感じで、低中回転から比較的フラットなトルク感が得られます。高回転を回して走るタイプではなく、この個体のオーナーの設定したレヴリミットは、5,500rpmでした。
それでも、1300や1100などと比べると、この998ccエンジンは比較的上の回転まですんなり回せる印象でした。

ミニ・ピカデリーのもうひとつの特徴は、この上質な内装色にあります。
室内色は全てピカデリー専用のもので、インストゥルメントパネル自体は、オースチン・ローバー時代の標準的なものです。
室内は、余計な物が着いていないので以外に広く、ミニに乗ると、現代の日本の乗用車には、なんて余計な物が沢山着いているのだろうということに気がつかされ、それらのせいで室内の広々感が失われていることが判ります。
例えば、前輪駆動車(FF)は、元々ギアボックスが横置きなのと、プロペラシャフトのトンネルが室内に張り出していないので、前席の足元は比較的広い空間が確保できるのですが、大抵のクルマはここに大きなセンターコンソールと呼ばれる小物やオーディオなどを収める箱が着いているために、窮屈になっている場合が多いのです。

計器類は、タコメーター無しの2眼で、速度計とコンビネーション計の組み合わせです。
センターメーターは、1980年ごろに廃止されたようで、ステアリングの前にメーターが着いています。
Piccadillyロゴ付きホーンボタンが着いたステアリングは、この個体の特製だそうです。

80年代のオースチン・ローバー時代のミニのインストゥルメントパネルは、比較的モダンなデザインを持っています。
真ん中に集められたスイッチ類は、他のローバーのモデルにも使われていたと思います。
左端に、チョークレバーがあるのが初代ミニの時代を感じさせるアイテムです。
木製のシフトノブは、社外品と思われます。

さて、初代ミニの後席に乗る場合は、このようにクッション部ごと持ち上がる前席を跳ね上げます。
当然、前席を固定する為の金具が一緒に持ち上がりますので、高級なお召し物を引っ掛けたりしないように、注意して乗り降りする必要はありますが、これはご愛嬌。

前述の通り、センターコンソールが無い分、小さなボディでも足元は比較的広々としてます。
但し、フロントタイヤのタイヤハウスが室内に張り出していますので、運転席の足元右側は、若干スペースが少なくなっています。
これは、1000ccクラスの欧州車には何故か共通することなのですが、ペダル類がかなり真ん中寄りに着いています。
しかも、ペダル間が狭いので、よく大柄な欧州の人たちが踏み分けられるなぁと思うこともしばしあります。
慣れないと、ブレーキとアクセルを一緒に踏んでしまうこともあるので、注意が要ります。
例のバスのように寝かせて装着されているステアリングの位置ですが、走り好きのミニオーナーたちは、自分の好みでステアリングコラムを若干下げて固定すると云うカスタマイズをするのが定番だそうです。
この写真は、標準の位置にありますが、後にこの個体もそのチューニングを受け、コブラのバケットシートと合わせて、とても絶妙のレーシーで扱いやすいドライビングポジションに変貌しておりました。

初代ミニのインテリア・オブ・ザ・イヤーがあったら、ピカデリーにあげたくなる、エレガントな内装色。
ドア内張りも、その色あいで統一されています。
フロアカーペットも上質なものが張り巡らされており、この個体の赤のフロアマットと非常によく似合っていました。

後席もこのような高級な3色の生地が与えられています。
初代ミニは、後席も外見のサイズからはちょっと想像がつかないぐらいに、足元も広々とした感がありました。
<2015/05/10 カスタムピカデリーの画像を追加しました。>

さて、これまでの写真から数年後のこの個体の姿です。
室内は、1960年代のBMCミニスタイルのスミスのセンターメーターに置き換えられ、他の計器も追加されて6眼メーターになっていました。
シフトレバーもカスタマイズされ、ノブはアルミ削り出しで、ステアリングは木製に、特注のピカデリーロゴ着きのホーンが装着されていました。



純正にさらにエレガントさと、スポーティさを増した印象で、初代ミニのベストチョイスのひとつのように思えました。

【こぼれ話】
この個体は、滋賀県高島市朽木にある「LOFT CAFE」さんおオーナー様の愛車を取材させていただきました。
筆者が、もう長年お世話になっている、行きつけのお店のオーナー様です。いつも、ありがとうございます。
じつは、この標準仕様のピカデリーを取材したのは2011年頃の事で、前半の写真は当時のものです。
そして、最後の2枚が2014年の写真で、このとき久しぶりに再会したピカデリーは、オーナー色に染まった絶妙なカスタムミニに生まれ変わっていました。
前述のシートポジションの改善、センターメーター化などで内装を、外装にはミニ・クーパー1.3i用のさらに大きなオーバーフェンダーに、8本スポークのレーシングホイールとセミレーシングラジアルの組み合わせ。
足回りにも手が入れられており、さらにエンジンや駆動系もしっかりと整備し直されて、抜群のドライビングマシンになっておりました。
元々服飾系のお仕事を経験されているオーナーだけに、ピカデリーのエレガントさを損なわずに、元々運転が楽しいミニをさらに楽しめる仕様に仕上がっていました。
仕上がり後のピカデリーにも試乗させていただきましたが、元々素性のいいかっちりとしたボディに、ピリッと辛口の西洋スパイスが加えられて、ほんとにワクワクするドライビングを提供してくれる一台でした。
もちろん、それなりのスピードで走れるクルマでしたが、2,000rpm~4,500rpmぐらいでも十分に走りますし、僅かなステアリングへの入力とアクセルワークのシンクロで踏み込みながら曲がる感覚は、普通の速度でもとっても楽しい運転が出来るクルマと云う印象でした。
ワイルドも楽々こなせる、エレガントなミニ。LOFT CAFEさんのお店の雰囲気にも、オーナーの雰囲気にもこれまでで一番ぴったり似合っていると思いました。
これは、是非これは長年手放さずに乗っていて欲しいなぁと思った至上の一台なのでした。
取材協力:滋賀県高島市朽木 「LOFT CAFE」(ロフト・カフェ)
音楽好きと珍しい自動車やバイクが集まる、楽しいお店です。メシも美味い!
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