
フェラーリ・308GTS・クアットロヴァルヴォーレ
(FERRARI 308GTSi QUATTOROVALVOLE – F106A – イタリア車 – 1985年)

以前、プロフィールにも書いていたとおり、筆者の一番好きなクルマをご紹介します。
フェラーリ308GTSクァットロヴァルヴォーレ。
1982年に308GTシリーズは、4バルブ化されたエンジンにバージョンアップされました。
それまでの308GTSとの外観上の最大の特徴は、ボンネットに設けられた排気ダクトです。
ここでは、オーナー自身がメンテナンスをされていると云う極上の一台をご紹介します。

1975年に登場した308GTBエンジンをそれまでの2バルブから4バルブ化し、イタリア語で4バルブの意味であるクァットロヴァルヴォーレ(quattorovalvole)の名が付けられました。
1977年に追加された、脱着式の屋根を持つタイプが、308GTSです。
1985年にエンジンを3.2リッターに拡大し、外観も変更を受けた、328GTB/GTS以降も4バルブエンジンですが、この名が付けられているのは、この1982年登場の308シリーズのみでした。

数あるフェラーリの中でも特に美しいと言われているのが308GTB/GTS。
云わずと知れた、ピニンファリーナ社のデザインで、全体のデザインバランス、細部に至る曲線美、あらゆる部分が宝石のように美しい一台で、その姿はスーパーモデルの美女と云った印象で、時を越えても隙がありません。

308GTSは、いわゆるスーパーカーですが、どう猛な印象ではなく、エレガントな雰囲気が漂います。
ウエストラインの曲線美とドアからリアフェンダーにかけて刻まれたエアスクープ、スパッと切り落とされたテールエンドまで、完璧なデザインです。
エンブレム以外にクロムめっきは一切使われておらず、イタリアンレッドと黒の融合も絶妙で、めっきを施さなくともエレガントさは表現出来ると云う見本になりました。

この個体には、大型のフロントスポイラーが装着されていましたが、これはフェラーリの純正オプションなのだそうです。
比較的大きめですし、高速走行時のフロント部分の浮き上がりを防止する為に、実際に機能すると思われます。

こちらは、イタリア車でお馴染みのヴィタローニ社製のサイドミラー。根元のジャバラが特徴です。
フェラーリのエンブレムは、オーナーが後で取りつけたものだそうですが、純正のようによく似合っています。

金太郎飴のように、「どこを切っても」美しいのが308。部分的にどのカットを撮っても美しいクルマです。
クォーターウインドウにはスリット状のカバーが着いていますが、この鍵を開けると給油口があります。
黒いカチューシャのようなルーフスポイラーが装着されているのはエンジンフードですが、4バルブ化した308からは、エンジンフードのベンチレーター開口部が大きいものと、左右2つに分かれているものと2種類あるようです。

子供の頃、長い間謎だったのが、308GTSのドアの開け方。
TVRサーブラウ・スピード6程変わった所には付いていませんが、殆ど目立たないドア後端に縦長の黒いパーツが着いています

この部分をフロントの方向に倒すと、決して安っぽく無い「カチャ」と云う軽い音と共にドアが開きます。
機能の為にデザインを犠牲にしていないところがまた、スーパーカーたる所以です。

こちらは、エンジンフードを開くためのレバーです。ドアを開けて厚みの部分に着いていますが、ここはめっきされていて、跳ね馬があしらわれています。
外観では後の跳ね馬エンブレム以外にクロムめっきはありませんが、見えないところにはしっかりと使われていて、しかも跳ね馬が入っている部分のみに施されているところが、また凝っていました。

フロントボンネットの裏側も、子供の頃からの謎でした。
まず、ボンネット自体は一本の油圧ダンパーで支えられていました。
先端には、低いノーズと狭いボンネット幅一杯にラジエータが納まっています。
クァットロヴァルヴォーレには、スリットが装着されていますが、裏側はこのようにクション材に囲まれていて、ラジエータからの温風を掃き出すようになっていました。

スペアタイヤは、テスタロッサの頃からはスペースセイバータイヤになっていたと思いますが、308GTSには、通常サイズのスペアタイヤが収まっています。ホイールも妥協無くカンパニョーロ製の通常のものが着いています。
ホイール一本の値段を考えると、とても贅沢でもあります。
ホイールの中に納まっているボトルは、ウォッシャータンクのようです。

タイヤの周囲がしっかりと樹脂製の構造物で覆われており、応急タイヤの為の、しかも外観からは見えないところもしっかりと造りこまれた感じがします。さすがは超高級車です。
ワイパーは、とても細く感じますが、これも外観の上品な美しさに寄与しているように思いました。
ボンネットキャッチは、左右2箇所に設けられています。

こちらはエンジンフードを開けたところ。
水冷式90度V型8気筒DOHC4バルブ 3,000ccエンジン。横置きのミドシップです。
本などでもお馴染みの308GTSのエンジン外観ですが、スーパーカーを撮る時には、どうしても本で見たのと同じカットを狙ってしまいます。

美しいイタリアンレッドに塗られたインテーク。
Ferrariとquattrovalvoleの文字が着いています。

こちらは、V8エンジンの後バンク側。1-3-4-2と点火の順番が刻印されています。
右側に見えるのは、エンジン振動を抑える為のトルクロッドと思われます。

この頃のフェラーリと云えばアジップ(Agip)オイル。
指定オイルの表記もこのような立派なプレートが着いていました。
指定オイルは、SAE 10W/50のAgip SINT 2000と云う製品が指定されています。
ちなみにデファレンシャルオイルは、SAE 80W/90のAgip F.1 Rtra MPと云う製品を使うそうです。

308GTSの内装は、黒のレザーで統一されています。
フェラーリおなじみの、ゲートが刻まれたシフトレバーが直立しています。
ドア内張りも、とても個性的なデザインになっていました。
1DINのアルパイン製のカーステレオとカーナビゲーションは外品ですが、以前わたしがHP10プリメーラに着けていたアルパインのヘッドユニットと同じだったので、ちょっと嬉しかったです。

流麗な外観とは一味違う、スーパースポーツらしいコックピット。
ヴェグリア(Vegria)製のアナログメーター類がそそります。
ウインカーレバーなどはとても細く、シフトレバーとの統一感がありました。
レプリカも随分沢山出回りましたが、ステアリングは本物のモモ・フェラーリです。

インストゥルメントパネルの助手席側には、「GTSi」のバッジが装着されていました。
iと云うのはインジェクションの意味で、308には、4バルブ化の少し前にインジェクション仕様のエンジンが登場しました。

シート形状は、後の328やテスタロッサにも通じる80年代のフェラーリらしい形状をしています。
座面、背もたれ共に、比較的薄く造られていますが、座らせていただいたところ、体をしっかりとホールドしてくれる感じでした。

308GTSクァットロヴァルヴォーレのセンターコンソール。
わたしがこのクルマで特に好きな部分でもあります。
トグルスイッチが並んでいますが、これはエアコン・ヒーターなどの空調コントロールが主のようです。
前方にはアナログメーターが2眼並んでいます。
跳ね馬のフタは恐らくですが灰皿。
シフトゲートの後のスイッチは、パワーウインドウのようです。
このカットだけでも、なんとカッコいいことか!

308GTSクァットロヴァルヴォーレのヴィタロニミラーは電動式でした!
但し、21世紀の国産車のように、電動折畳み機能はありません。
しかし、さすがに三角窓は開かないので、重宝する機能だと思います。

子供の頃からの謎、第三弾!
「308GTSの屋根の裏側はどうなっているのだろう?」
この通り、ちゃんと綺麗なフェルト状の内張りが施されていました。
強度の為の柱があるのか、内側から見るとTバールーフのような形状をしていますが、308GTSの天井は、分割式ではなく一体型です。
ここで第四弾「外した天井はどうするの?」
答えは、シートの後に綺麗に納まるのだそうです。
特に日本では、308/328共にこの天井が外れるGTSの方が人気が高いそうですが、それもそのはず。
天井を外してトンネルに入ったときの3リッターV8クァットロヴァルヴォーレのサウンドは、比類無き快音だそうです。
※筆者は、トンネルは入ったことが無いですが、328GTSで屋根を開けて貰って走ったことがありますが、それはもう至上の快感でした。

夢の競演!フェラーリ308GT勢ぞろい。
左から308GTB、308GT/4、そして308GTSクァットロヴァルヴォーレ。
真ん中の白の308GT/4は、ベルトーネ社のデザインで4人乗りのミドシップと云うフェラーリの中でも超個性派です。
外観のクロムめっきを排したピニンファリーナ社製デザインに対し、308GT/4は、窓枠などにクロムめっきが採用されており、曲線のGTB/GTSに対してGT/4は角の印象が強く、マセラティ・メラクあたりのデザインに近い印象で、デザインコンセプトの大きな違いが判りました。

【こぼれ話】
この個体は、チームヤマモト・クラシックカーフェスティバルの会場に見学に来られていた方に声を掛けさせて頂き、取材させていただきました。
筆者にとって、遂に憧れの308GTSクァットロヴァルヴォーレとのご対面となりました。ありがとうございます。
冒頭にもある通り、この個体は文字通り隅々までオーナー様の手入れが行き届いた極上のコンディションに保たれた一台でした。
ご自身でリフト付きガレージを持っておられ、日頃のメンテナンスから修理、車検整備までの一切をご自身の手で行われているそうです。愛車のスーパーカーのメンテナンスを全て自身で行われる姿勢に頭が下がります。

筆者の308GTSへの憧れ。
出会いはトミカでした。いわゆる青箱時代の308GTB。
これが初めて買ってもらったスーパーカーのミニカーでした。
今もう一度欲しいのですが、どうやらプレミアが付いているようで、トミカすら自分には手が出せません。
それから初めて連れて行ってもらった自動車ショウ。1979年の大阪外車ショウでした。
そこには黄色の308GTBと赤の308GTSがあり、強烈な印象でした。
GTSを知ったのはこの時が初めてでした。
「スーパーカーで屋根が開く」、これは想像しただけでワクワクしました。
どれだけ気持ちいいクルマなんだと。
やがて中学生の頃から読み出したカーグラフィック誌。
カウンタックの記事がきっかけだったのですが、その後、この308GTSクァットロヴァルヴォーレの記事が掲載され、穴が開くほど何度も読み返しました。
写真の美しさでも定評があるCG誌ゆえに、鮮やかなイタリアンレッドカラーのクァットロヴァルヴォーレは、また強烈に印象に残ったのでした。
夕暮れにイルミネーションが輝くセンターコンソールの一枚に、この部分が好きな理由があると思います。
それから原付きで走っているときに、稀に見かけた308GTSの姿を追いかけて、そのエキゾーストノートに耳を澄ましました。
ギューンと云うなんとも云えないメカニカル音は、どんな楽器の音をも上回りました。

手に届くはずの無い、絶世の美女308GTSクァットロヴァルヴォーレに片想いをしてしまい、中学の頃には水彩で画を描いたり、課題の版画で288GTOを彫ったりしましたが、気合の入れようが半端ではなかったのを覚えています。
持てなくてもいい。一生に一度でいいから自分でアクセルを踏み込んで、あのヴェグリアのレヴカウンターを躍らせてみたい。
そんな10代の憧れがありました。
今でも、庭に置いて一日でも三日でも朝から晩までずっと眺めてられるだろうなぁと云うのが、この308GTSクァットロヴァルヴォーレです。
そんなわけで、今回は筆者憧れの永遠の美女を取材させていただいた貴重な時間でした。感謝。




